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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2365号 判決 1949年12月03日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松尾菊太郎の上告趣意第一点について。

本件において被告人は昭和二三年七月二〇日逮捕され同月二二日勾留状の執行を受け同月三一日公判請求があり同年一〇月二六日第一審第三回公判で從來否認を続けて来た供述を飜えし本件犯罪事実を自白するに至ったもので逮捕後右自白までの日数が一三〇日であることは記録上明かである。しかし本件事案は原判示の如く被告人が松原敏彦外数名と共謀して敢行した集團強盗事件でありその事案の複雜性並びに取調の情況等に鑑みるときは被告人の右程度の拘禁は現今における刑事事件の幅輳している條件下においては已むを得ないのであってこれをもって不当に長い勾留とは言い得ないのである從って被告人の前記自白は刑訴應急措置法第一〇條第二項後段にいわゆる不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白にあたらないものであるから論旨の前段はその理由がない。

次に所論の証人題佛一夫に対する福井地方裁判所裁判長裁判官津田進の訊問調書中の同人の供述記載は同人が武佐深志及び被告人(平野)から傳聞した事実の供述を録取したもので單なる風説又は風聞に属するものではない。そして証人が特定の人から或る事実を傳聞したという証言は旧刑訴法においてはそれ自体証拠能力がないものということはできない。從って原審が前記証人の供述記載を証拠として採用したことをもって違法ということはできない。また原審公判廷で右題佛一夫が証人として訊問を受けた際右証言事実を否定したとしても証拠の採否はもとより事実審たる原審の専権に属するのであるから原審に採証上の違法があるとはいえない。そして原判決は被告人の本件犯罪事実を認定する証拠として前記被告人の自白の外補強証拠として判示各証拠を挙示引用しているのであるから被告人の自白を唯一の証拠として有罪とされ又は刑罰を科せられたものでないことは明かである。從って論旨後段もその理由がない。

同第二点について。

しかし原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人が松原敏彦外数名と強盗を共謀し判示の強盗行為を敢行しその際共謀者の一人が佐野秀雄の頭部を野球用バットで殴打し同人に判示の挫創を負はせた事実を認定できるのであるから原判決が被告人の本件犯行に対し強盗傷人の罪責を認めたことは当然で論旨は理由がない。

よって刑訴施行法第二條旧刑訴第四四六條により主文のとおり判決する。

この判決は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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